肺移植:患者のための総合治療ガイド。

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肺移植は、臓器拒絶反応や感染症といった課題を抱えつつも、生存率と生活の質の向上を実現し、進行性肺疾患に対する標準的な救命治療として確立されてきました。本総説では、厳格な年齢制限に代わり、新たな虚弱度(フレイルティ)と体組成の評価を導入することで、患者選択がより柔軟になった経緯を解説します。さらに、ドナー肺の保存技術と分配システムの進歩について詳述します。評価と手術から長期管理や合併症対策まで、移植の全過程を網羅し、患者がこの複雑な過程を乗り越える上で、多職種チームが果たす極めて重要な役割を強調しています。

肺移植:患者のための包括的ガイド

目次

はじめに:肺移植とは

肺移植は過去60年で、実験的な処置から生命を脅かす肺疾患に対する標準治療へと進化しました。適切な候補者では生存率と生活の質の改善が期待できますが、初期移植肺機能不全(移植後の早期肺損傷)、慢性肺移植片機能不全(CLAD:移植肺の長期的な瘢痕化)、日和見感染症や悪性腫瘍のリスク増加、慢性免疫抑制薬に伴う健康問題といった課題も伴います。

世界的な需要の増加にもかかわらず、実施される肺移植数は必要性に追いついていません。本稿では、肺移植の現状、最近の進展、そしてこの困難ながらも生命を変える可能性を秘めた治療の将来について概説します。

適応評価と選択基準

適切なドナー肺の不足により、移植センターは移植で最も利益を得られる可能性の高い候補者を慎重に選択する必要があります。従来、適切な候補者は以下の条件を満たすと定義されていました:

  • 肺疾患による2年以内の死亡リスクが50%超
  • 移植後5年生存率が80%超(適切な肺機能を維持)

肺移植に至る最も一般的な疾患は以下の通りです:

  • 肺線維症(肺組織の瘢痕化)
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 肺血管疾患
  • 嚢胞性線維症

患者は通常、肺機能の低下、身体機能の減少、最大限の内科的・外科的治療にもかかわらず疾患が進行した場合に紹介されます。早期紹介により、リスクと利益について十分なカウンセリングを受けられ、移植成功のための潜在的な障壁に対処する時間が確保されます。

多職種チームは、免疫抑制に伴う生命を脅かす感染症などのリスクを評価しながら、移植の必要性を判断します。必須のスクリーニングには以下が含まれます:

  • 肺外臓器機能障害
  • 身体的適性
  • 精神的健康
  • 全身免疫能
  • 悪性腫瘍検診
  • 冠動脈および脳動脈の評価
  • 腎機能
  • 骨の健康状態
  • 食道機能
  • 心理社会的適応能力
  • 社会的支援体制

選択基準は大きく進化しました。かつて高齢は絶対的な障壁でしたが、2021年には米国受容者の34%が65歳以上であり、暦年齢ではなく生理的年齢を重視する傾向が強まっています。6分間歩行試験は現在、身体的予備能と手術ストレスへの反応を評価するより正式な虚弱評価で補完されることが多くなっています。

虚弱は肺移植後の不良な転帰と関連し、体組成と密接に関連しています。候補者評価のアプローチは、ボディマス指数(BMI)のみに焦点を当てるものから、脂肪量と基礎筋肉量を含むより包括的な評価へ移行しています。虚弱、サルコペニア(筋肉減少)、回復力を定量化し、移植後の回復をより正確に予測するための有望なツールが開発されています。

体組成と虚弱はともに、術前肺リハビリテーションを通じて改善可能であり、より良い転帰につながる可能性があります。回復可能性の判断は、機械的換気や体外式生命維持装置(高度生命維持システム)を必要とする重症患者では特に困難ですが、こうした状況下でも慎重に選択された患者は、移植前の支援を必要としない患者と同様の転帰を達成できるようになっています。

以前は絶対的禁忌とされていた事項も、現在は個別に評価されます。移植リスト登録前の従来の5年間悪性腫瘍フリー要件は、再発リスクの個別化評価に置き換えられました。同様に、全身性自己免疫疾患はもはや移植への自動的な障壁ではなくなりましたが、疾患特異的な評価と症状軽減のための治療が推奨されます。

一部の患者は特定のHLAサブクラス(免疫認識に重要なタンパク質)に対する循環抗体を持ち、特定のドナー臓器に対して「感作」された状態になります。これにより待機期間の長期化、移植可能性の低下、急性臓器拒絶反応およびCLADのリスク増加が生じます。しかし、血漿交換、静注免疫グロブリン、抗B細胞療法を含む術前脱感作プロトコルを用いることで、同様の転帰が達成されています。

ドナー肺の選択と活用

臓器提供は依然として利他的行為であり、同意とドナーの自律性の尊重が最も重要な倫理的考慮事項です。ドナー肺は、胸部外傷、蘇生処置、誤嚥、塞栓症、人工呼吸器関連損傷や感染症、神経因性損傷など様々な原因で損傷を受ける可能性があり、多くの場合移植に適しません。

国際心臓肺移植学会(ISHLT)は一般的に許容されるドナー基準を定義していますが、これらは移植センター間で異なります。「理想的」基準を満たすドナーはごく少数ですが、ドナー肺の活用は以下を通じて継続的に増加しています:

  • 拡大基準ドナーの使用(標準的理想基準を満たさないドナー)
  • 慎重な評価
  • 積極的なドナー管理
  • 体外評価(体外での肺評価)

ドナーの能動的喫煙歴は、受容者における初期移植肺機能不全のリスク因子ですが、死亡リスクの増加は限定的であり、非喫煙者からの肺を待つ長い待機期間による死亡リスクとバランスを取る必要があります。

他のリスク因子のない高齢ドナー(70歳超)からの慎重に選択された肺の使用は、若年ドナーと比較して同様の生存率および移植片機能転帰を示しています。制御下循環死後提供(DCD)からの肺の使用は、一部の国で30-40%に上昇しており、急性臓器拒絶反応、CLAD、生存率は同様です。

伝染性ウイルスに感染したドナーからの臓器移植は、より実行可能になっています。C型肝炎ウイルス(HCV)に対する直接作用型抗ウイルス薬により、HCV陽性ドナー肺からHCV陰性受容者への安全な移植が可能になりました。同様に、HIV陽性ドナー肺はHIV陽性受容者に移植可能であり、B型肝炎ウイルス(HBV)陽性ドナー肺は既存の免疫を持つワクチン接種済み受容者に移植可能です。

活動性または既往のSARS-CoV-2感染症を持つドナーからの肺移植が報告されていますが、安全性を確定するためにはより多くの証拠が必要です。肺の質の評価は多臓器採取中に困難な場合がありますが、体外肺灌流システムにより、移植前のより詳細な機能的評価と潜在的なコンディショニングが可能になります。

これらのシステムは、損傷したドナー肺を修復するための特定の生物学的治療を投与するプラットフォームを提供します。2つの無作為化試験では、標準基準ドナー肺に対する常温体外肺灌流(体外で体温を維持)が安全であり、保存時間の延長を可能にすることを示しました。

新しい保存技術には、氷上0-4°Cではなく、高度低体温(6-10°C)でドナー肺を維持することが含まれ、より良いミトコンドリアの健康状態、より少ない損傷、改善された肺機能を示しています。半選択的昼間移植のためのより長い一晩の保存で有望な転帰が報告されています。

10°Cでの保存と標準的冷蔵保存を比較する大規模な非劣性安全性試験が進行中です。適時の臓器回収を促進する多臓器ドナーケアセンターと、移植前の臓器機能を改善する臓器修復センターの使用が増えています。

肺移植の分配システム

2005年、米国は待機時間ベースの分配システムから、肺移植ありとなしの推定1年生存率の比を含む緊急性加重肺分配スコアへ移行しました。他の国々も、待機リスト死亡率を減少させ移植活動を増加させるために同様のアプローチを採用しました。

2023年3月、米国は5つの領域を優先する新しい複合分配スコアを採用しました:

  1. 医学的緊急性(移植なしでの1年生存期待に基づく)
  2. 移植後転帰(5年生存率に基づく)
  3. 生物学的不利(血液型、身長、および感作に基づく)
  4. 患者アクセス(小児状態および生存臓器提供歴に基づく)
  5. 移植効率(移動距離、コスト、および輸送効率に基づく)

現在の慣行では、不良転帰に関連するドナー臓器リスクを正式に定量化しておらず、将来の改良の機会を表しています。

移植手術のアプローチ

両側逐次肺移植は、すべての疾患適応において最も一般的な手技です。片肺移植は時間とともに減少しましたが、特に高齢患者において、同様の転帰とより少ない術後合併症を有する貴重な選択肢として残っています。

両側対片肺移植の利益に関する議論は続いており、観察研究における選択および適応バイアスによりデータが制限されています。心肺移植も時間とともに減少し、両側肺移植と同時心修復では修正できない心状態を有する末期心不全および肺不全の患者に限定されています。

手術アプローチは、好みと経験に応じてセンター間で異なります。横断的胸骨切開を伴う両側開胸(「クラムシェル」切開)は良好な露出を容易にしますが、疼痛の増加および回復遅延と関連する可能性があります。代替アプローチには、胸骨切開なしの両側前開胸または片肺移植のための後側方開胸が含まれます。

移植後ケアと合併症

移植後、患者は拒絶反応を防ぐために生涯にわたる免疫抑制を必要とし、新しい肺を保護することと薬剤の副作用を管理することとのバランスが求められます。一般的な合併症には以下が含まれます:

初期移植肺機能不全(PGD): これは早期合併症および死亡の主要原因であり、移植後72時間以内に発生します。これは様々な重症度の急性肺損傷の一形態を表します。

慢性肺移植片機能不全(CLAD): これは長期的生存への主な障害であり続けており、移植後5年までに約50%の患者に影響を及ぼします。CLADは進行性の瘢痕化および肺機能の低下を伴います。

感染症: 免疫抑制状態の患者は日和見感染のリスクが高く、慎重なモニタリングと予防戦略が必要です。

悪性腫瘍: 免疫抑制は悪性腫瘍のリスクを増加させ、特に皮膚癌やリンパ増殖性疾患が多く、定期的なスクリーニングが必要です。

その他の合併症: 免疫抑制薬に関連する腎機能障害、骨疾患、糖尿病、心血管疾患などが含まれます。

免疫抑制レベルを慎重にモニタリングし管理することが、拒絶反応予防と副作用最小化のバランスを取る上で極めて重要です。

多職種医療チーム

肺移植には、治療過程全体を通じた包括的なチームアプローチが必要です。多職種チームには以下が含まれます:

  • 移植呼吸器内科医
  • 移植外科医
  • 移植コーディネーター
  • 薬剤師
  • 栄養士
  • 呼吸リハビリテーション専門家
  • 理学療法士
  • ソーシャルワーカー
  • 集中治療専門医
  • 内分泌専門医
  • 免疫学者
  • 感染症専門医
  • 消化器専門医
  • 精神科医
  • 財務コーディネーター

このチームは、評価、移植前ケア、移植直後ケア、長期管理を通じて患者を支援し、機能と生活の質の向上に焦点を当てます。

肺移植の将来展望

研究は肺移植の主要な課題に対処し続けています。重点分野には以下が含まれます:

CLAD(慢性肺移植機能障害)の予防と治療: CLADの機序に関するさらなる研究と、予防・治療戦略の多施設臨床試験が緊急に必要です。

臓器保存: 体外および体内評価を可能にする新技術は、保存時間の延長とPGD(一次移植臓器機能不全)リスク低減の可能性を示しています。

免疫抑制最適化: 長期免疫抑制の保護効果と有害作用のバランスを取るためのより良い戦略の開発。

ドナープールの拡大: 拡大基準ドナーの選定基準の継続的な見直しと臓器修復技術の改善。

分配システム: 効率性と公平性を改善するための分配アルゴリズムのさらなる精緻化。

研究の限界

本総説は現在の知見をまとめたものですが、いくつかの限界があります。原著研究ではなく総説であるため、独自の限界がある可能性のある既存の公表研究に依存しています。データの多くは無作為化比較試験ではなく観察研究に由来するため、因果関係に関する確定的な結論は限られています。

この分野は急速に進化しており、新しい証拠が出現するにつれて推奨事項が変更される可能性があります。移植センター間で実践は異なり、記載されているすべてのアプローチがすべての施設で利用できるわけではありません。新しい技術やアプローチに関する長期データは依然として限られています。

患者への推奨事項

肺移植を検討または受けている患者へ:

  1. 早期紹介を求める: 直ちに適格でなくても、疾患経過の早期段階で呼吸器内科医と移植について相談してください。
  2. リハビリテーションに参加する: 術前呼吸リハビリテーションは身体状態を改善し、転帰を向上させる可能性があります。
  3. 支援体制を構築する: 移植に進む前に、適切な介護者支援と社会的資源を確保してください。
  4. 修正可能な危険因子に対処する: 移植前に栄養状態、糖尿病管理、その他の健康問題を最適化するため医療チームと協力してください。
  5. 継続的な取り組みを理解する: 移植には生涯にわたる服薬、モニタリング、生活調整が必要であることを認識してください。
  6. 経験豊富なセンターを選ぶ: 豊富な経験と包括的な多職種支援を備えた移植プログラムを選択してください。
  7. 現実的な期待を持つ: 移植は生活の質と生存率を大幅に改善できますが、根治ではなく継続的な課題を伴います。

出典情報

原題: Lung Transplantation
著者: Jason D. Christie, M.D., Dirk Van Raemdonck, M.D., Ph.D., Andrew J. Fisher, Ph.D., B.M., B.S.
掲載誌: The New England Journal of Medicine, 2024年11月14日
DOI: 10.1056/NEJMra2401039

この患者向け記事は、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部肺アレルギー集中治療医学部門、ルーヴェン大学病院胸部外科学科、ニューカッスル大学移植再生医学部門による査読付き研究に基づいています。